新しい相続制度のなかで、この「配偶者居住権」は高齢社会に対応したものだ。例えば、3,000万円の自宅と2,000万円の預貯金を残して夫が亡くなった場合、相続人が妻と子の時、法定相続は妻と子それぞれ1/2になり、合計5,000万円のうち1/2の2,500万円ずつ相続するのが従来だ。こうなると、子の相続分2,500万円のうち2,000万円は預貯金で充当してもまだ500万円不足となる。そのため、3,000万円の自宅を売却して500万円を捻出せざるをえなくなりかねない。
2020年4月からはこのような不条理は多少は解消できる。まず、自宅の3,000万円を「居住権」と「所有権」に分けることができる。例えば居住権を妻へ1,500万円、所有権を子へ1,500万円とし、預貯金2,000万円を1/2ずつで、子の相続分は2,500万円となる。妻は家に住み続けられ、なおかつ1,000万円手元に残る。
ただ注意が必要なのは、「配偶者居住権」は売却ができないことだ。急な出費のため家を売却、とはいかない。
新しい相続制度が始まっても、妻と子との不仲や子の間での不仲による「争続」は尽きないとは思われるが、少なくとも配偶者を失った高齢者の生活を守る、高齢社会に対応した改正と言えよう。